1. はじめに

本レポートは、日本国内のフリーランス市場の中でも特に IT フリーランスに焦点を当て、その市場動向を詳細に分析したものです。

経済産業省による「IT人材需給に関する調査」や内閣官房日本経済再生総合事務局の「フリーランス実態調査結果」といった公的調査に加え、本調査では、500名を超えるITフリーランスおよび 500 社以上のITフリーランス活用企業の責任者への直接インタビューを実施し、現場の生の声と実態を深く掘り下げています。

さらに、300社以上のITフリーランスエージェントを支援する当社運営の「フリーランススタート」(https://freelance-start.com/)で提携する事業責任者から今後の市場展望に関する見解を収集し、多角的な視点から分析を行いました。

この広範な調査を通じて、ITフリーランスとして活躍するデジタル人材、彼らを活用する企業、そしてフリーランスエージェントの市場動向を明らかにし、関係者全ての皆様の事業活動の一助となることを心より願っています。

2. ITフリーランスの市場規模について

本調査では令和4年就業構造基本調査結果をベースに、ITフリーランス事業を行う事業者とのインタビューや当社分析情報をもとに情報通信業を本業とする人材に絞ったITフリーランス市場規模を算出をしております。

2025 年におけるITフリーランスの市場規模は、1兆1,849億円に達すると予測されており、これは10年前の2015年(7,199億円)と比較して約1.6倍の顕著な成長を示しています。この10年間は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)推進や、SaaS企業をはじめとする新興IT企業の台頭がIT人材への高い需要を牽引してきました。特に 2023年頃までは、新型コロナウイルス感染症の影響によるリモートワーク体制の急速な整備も相まって、企業のDX 対応が加速し、フリーランスとして活動するIT人材は着実に拡大してきました。

しかし近年、ITエンジニアを取り巻く環境には新たな変化の兆しが見られます。米国のMicrosoft やSalesforceといったグローバルリーダー企業でのエンジニア人員のレイオフや採用停止の動きが見られる一方で、創業わずか 3 年で企業価値が1.4 兆円を超える Cursor や Devinのような開発支援AIの台頭が著しいです。これらの変化は、求められるIT人材の定義が再構築されつつあることを示唆しています。このようなIT人材活用の再定義が進む中で、高度なスキルを持つデジタル人材のフリーランス化は一層加速すると考えられます 。自身のスキルを最大限に活かせる活躍の場を自己選択する動きが強まる結果、デジタル人材におけるフリーランス比率は2030年には15.3%を超え、市場規模は1兆3,619億円に到達すると予測されています。

3. ITフリーランスの動向

IT人材のフリーランス化が加速する中で、本調査では約500名のITフリーランスにご協力いただき、その実態を詳細に調査しました。案件探しの手法から収入の変化に至るまで、現在の ITフリーランスの多様な動向を整理しています。

3-1. ITフリーランスの主な職種

ITフリーランスとして最も回答が多かった職種は、システムエンジニア(SE)で25.2%を占めました。次いでWebディレクターが 12.4% 、プログラマーが12.2% となっており、多岐にわたるIT専門職がフリーランスとして活躍していることが明確に示されています。

3-2. 案件獲得の手法

ITフリーランスが案件獲得に用いた方法で最も多かったのは、知人紹介(45.6%)でした。これは、個人のネットワークや信頼関係が依然として重要な役割を果たしていることを示唆しています。次いで、ご自身での営業活動(26.6%)、フリーランスエージェント(23.5%)が続きます。この結果から、人脈や個人の営業努力に加え、専門の仲介サービスも案件獲得において重要なチャネルとなっていることが分かります。

3-3. 収入の増減

フリーランスエンジニアとして働き始める以前と比較して、「変化なし」と回答した人が56.5%と半数以上を占めました。一方で、31.5%が「収入が増加した」と回答しており、フリーランスとして収入アップを実現している層も一定数存在することが明らかになりました。このことは、フリーランスという働き方が、自身のスキルや経験次第で収入向上に繋がる可能性を秘めていることを示しています。

3-4. 就業先・案件を選ぶ際の基準

就業先や案件を選ぶ際の基準で最も重視されているのは、「報酬が良い」(45.2%)でした。これは、フリーランスにとって経済的な側面が最も重要な要素であることを明確に示しています。次いで「人間関係のストレスがない」(31.8%)、「自らの知見やスキルを発揮できる(24.9%」)が上位に挙がっています。この結果から、収入面だけでなく、良好な職場環境や自身のスキルを最大限に活かせる案件であるかどうかも、フリーランスが就業先を選択する上で重要な要素であることが分かります。

3-5. フリーランスを選んだ理由

フリーランスを選んだ理由として最も多かったのは、「自分の希望の時間帯で仕事をしたいため」(44.9%)でした。次いで「自分の希望の場所で仕事をしたいため(34.4%) 」 、「自分の希望の仕事量で仕事をしたいため(32.8% 」 )が続きます。これらの結果は、柔軟な働き方を求めてフリーランスという道を選択する人が多数を占めていることを明確に示しています。収入増加を目的とする回答も26.2%と一定数存在しており、収入向上もフリーランスを選択する重要な動機の一つであることが伺えます

4. ITフリーランスを活用する企業動向

本調査では、実際にITフリーランス人材を導入している企業の部門責任者へのインタビューを実施し、企業におけるITフリーランス活用の実態を分析しました。調査結果からは、企業におけるITフリーランス人材の活用が急速に拡大していることが明らかになり、その背景には依然として深刻な IT 人材不足が続いている現状があることがわかりました。特に、システム開発、クラウドインフラ、セキュリティといった分野では、専門スキルを持つ人材の確保手段としてフリーランスの活用が進んでいます。

また、これまでフリーランスを活用してこなかった企業が新たに導入を始めるケースも多く見られました。こうした企業にとっては、特定スキルを持つ人材を短期間で確保できる点や、正社員採用に比べて柔軟かつスピーディに体制を構築できる点が大きなメリットとされており、開発スピードを維持しながら、必要なタイミングで必要なスキルを投入できる点が高く評価されていることがわかりました。

インタビューの内容として、「社内にない技術を迅速に取り入れる手段として非常に有効である」「コア業務とスポット業務の役割分担を明確にすることで、社内エンジニアの負担軽減につながっている」といった声が多数寄せられました。これにより、正社員エンジニアがより戦略的な業務に集中できる環境が整い、生産性や技術革新力の向上にも寄与していると考えられます。

今後は、フリーランス人材との協業を前提としたプロジェクト運営や、高度な専門性を有する個人とのネットワーク構築を進める企業がさらに増加すると見込まれます。単なるリソース補完の手段を超えて、企業とフリーランスが対等なパートナーとして共創していく時代が到来していることを、本調査は示唆しています。

4-1. ITフリーランス人材の活用状況

企業の約6 割が「今後(も)活用は増やしたい」(59.8%)と回答しており 、IT フリーランス人材の活用に対する企業の高い意欲が伺えます。現状維持を望む企業も34.2% と多く 、全体の9 割以上の企業が ITフリーランスの活用に非常に前向きであることが明らかになりました。このデータは、ITフリーランスが企業の人材戦略において不可欠な存在になりつつあることを示しています。

4-2. ITフリーランス人材の活用満足度

ITフリーランス人材の活用満足度については、「満足している(30.3%)」と「やや満足している」(46.8%)を合わせると、77.1%の企業が満足していると回答しています。これは、ITフリーランス人材が企業の多様な課題解決に大きく貢献していることを強く示唆しており、企業側がその専門性と柔軟な働き方に高い評価を与えていることが分かります。

4-3. ITフリーランスの活用目的

ITフリーランスの活用目的として最も多かったのは、「特定の開発スキルを持ったエンジニアが見つかったため」(52.0%)でした。これは、企業が特定の専門スキルを持つ人材を迅速に確保したいという強いニーズを持っていることを示しています。次いで「特定の業界経験を持ったエンジニアが見つかったため」(37.5%)、「正社員での採用がうまくいかないため」(33.2%)が続きます。この結果から、専門性の高い人材の確保や、正社員採用の難しさが、企業が ITフリーランスを活用する上で大きな推進要因となっていることが分かります。

4-4. 採用・活用・発注しているITフリーランスの職種

企業が採用・活用・発注しているITフリーランスの具体的な職種として、最も多かったのはクラウドエンジニア(41.2%)でした。次いでエンジニアリングマネージャー(39.6%)、IT コンサルタント(34.8%)、システムエンジニア(SE)(34.4%)、PdM(プロダクトマネージャー)(33.8%)など、非常に幅広い職種でITフリーランスが活用されていることが明らかになりました。これは、企業が多様なニーズに対応するために、専門性の高いフリーランス人材を積極的に活用している現状を反映しています。

5. ITフリーランスエージェントの市場動向

5-1. ITフリーランスエージェント市場規模推移

本調査ではIT領域におけるフリーランスエージェント市場の規模を算出しています。ITフリーランス全体におけるエージェントの活用率をベースに、実際にフリーランスエージェント事業を行う事業者へのインタビューにより今後の成長予測を含めた市場規模推移を算出しています。

6. まとめ

本レポートでは、IT人材領域におけるフリーランス市場、そしてその主要なプレイヤーであるフリーランスエージェントに焦点を当て、詳細な市場分析を行いました 。本調査にご協力いただいた IT フリーランスの皆様、彼らを受け入れている企業の皆様、そしてフリーランスエージェントの皆様には改めて深く感謝申し上げます。

IT人材の活用というテーマは、生成AIの登場など、現在大きな変革期を迎えていますが、今後も継続的にフリーランス人材の需要は高まると予測しています。拡大する市場の中で、今後の動向をどのように分析し、対応していくかは極めて重要です。

当社としても、引き続き市場分析を継続していくとともに、フリーランスエージェント事業を行う事業者と密接に連携し、業界の健全な発展に向けてより良いサービスの向上とマーケットの明確な定義に貢献できるよう努めていきたいと考えています。本レポートが、皆様の事業活動における意思決定の一助となれば幸いです。