公開日:2020.04.18
更新日:2025.03.24
採用・人事業務において、「同一労働同一賃金」への対応に迫られている企業担当者の方も多くいるのではないでしょうか。
同一労働同一賃金へのスムーズな対応には、同制度に対する正確な理解と正しい運用が求められるのです。
そこで今回は、「同一労働同一賃金」の目的や対象となる社員・賃金項目、同一労働同一賃金を巡る実際の裁判例などを解説します。
特に、下記の方にこの記事をご一読していただきたいです。
・企業の採用担当として同一労働同一賃金への対応をする必要がある方
・非正規雇用労働者を雇用している企業の経営者の方
・非正規雇用労働者として活躍されている方
・同一労働同一賃金について気になっているフリーランスの方
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<目次>
1.同一賃金同一労働とは
正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇差の解消を目的に策定
同一賃金同一労働が適用される非正規雇用労働者
・パートタイム労働者
・有期雇用労働者
・派遣労働者
給与・待遇の考え方
・基本給
・賞与
・各種手当
・福利厚生や教育訓練
EU諸国との違い
2.同一労働同一賃金の施行時期(大企業と中小企業の違い)
大企業
中小企業
3.同一賃金同一労働によって求められる企業側の対応
現在の自社の正規雇用労働者・非正規雇用労働者の待遇を確認
人事制度と就業規則の確認と変更の検討
4.同一賃金同一労働の対応をしなければどうなる?
国からの罰則規定はなし
裁判事例はある
・判例①(住宅手当などの支払い)
・判例②(退職金の支払い)
5.同一賃金同一労働でフリーランスはどうなる?
6.まとめ
この章ではまず、同一労働同一賃金の意味や目的、対象となる非正規雇用労働、そして給与・待遇の考え方についてお伝えします。
また、日本における同一賃金同一労働を理解するうえでは、EU諸国との違いを整理するもの効果的です。
同一賃金同一労働とは、同一企業・団体における正社員と非正規雇用社員との間にある、不合理な待遇差を解消することを目的とした制度です。
簡単に言い換えると「同じ仕事をしている限りは、正社員・非正社員に関わらず原則同額の賃金を支給すること」だと言えます。
ただし、仕事の内容や配置転換の範囲などが正社員と異なる非正規雇用社員であれば、不合理とならない範囲で異なる待遇とすることが可能です。
正確には、2020年4月施行の「パートタイム・有期雇用労働法」の中で規定されています。
そのため派遣社員や契約社員を雇用している企業であれば、法令に則った就業規則の改正などといった対応が必要です。
・パートタイム労働者
厚生労働省によると2020年4月1日以降のパートタイム労働者の定義は以下の通りです。
「1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間と比べて短い労働者」
(引用:厚生労働省平成31年4月版リーフレット「パートタイム労働法の概要」)
そのため、社内での呼び方が「アルバイト」「臨時社員」「嘱託社員」などと異なっていても、上記条件に当てはまるものはパートタイム労働者としてみなされます。
また、「通常の社員」とはその企業や団体における正社員や基幹的な働き方をしている社員のことです。
・有期雇用労働者
有期雇用労働者とは、事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者のことです。
労働基準法14条1項により、有期雇用契約期間は3年が上限とされています。
無期雇用労働者と比較して元々雇用の安定性や福利厚生の範囲などにおいて不利なことも多く、2020年3月31日以前のパートタイム労働法においては対象でもありませんでした。
しかし2020年4月にパートタイム・有期雇用労働法が施工されたことで、有期雇用労働者も対象に含まれることとなりました。
・派遣労働者
同一労働同一賃金の対象には、派遣労働者も含まれます。
派遣労働者とは、労働契約を結んだ派遣元の指示に従って派遣先へ行き、派遣先の指揮命令を受けて働く労働者のことです。
派遣労働者の場合、同一労働同一賃金の実現主体は派遣元である人材派遣会社であり、一定の判断基準に基づいて派遣労働者の待遇を検討していく必要があります。
派遣労働者の同一労働同一賃金を実現する方法は、大きく二つに分けることが可能です。
一つは「派遣先均等・均衡方式」という方法であり、派遣元と派遣先企業の協定により派遣先企業の正社員の待遇に合わせることで、同一労働同一賃金を図ります。
もう一つは「労使協定方式」と呼ばれ、派遣元と派遣労働者などの協議により、同一エリアで同種の業務に従事する一般労働者の平均賃金との同一労働同一賃金を目指しています。
ここでは、給与・待遇に対する同一労働同一賃金の考え方を項目ごとに整理します。
・基本給
基本給においては、労働者の下記3つの条件に応じて、それぞれ同一であれば同一の賃金支給をすることが必要です。
・能力または経験
・業績または成果
・勤続年数
一定の違いがあればその違いに応じて支給をすることとなりますが、その際は「将来の役割期待が異なるため」などといった主観的かつ抽象的な説明ではいけません。
賃金の決定基準やルールの被害について、職務内容や配置の変更範囲、その他事情の客観的かつ具体的実態に照らして不合理となってはならないとされています。
・賞与
会社の業績などに対する労働者の貢献に応じて支給するものに関しては、正社員と同一の貢献度であり、非正規雇用社員であれば同一の賃金を支払わなくてはいけません。
もし雇用形態の違いのみで賞与の支給条件が決められている場合は「不合理な待遇差」とみなされますので、注意が必要です。
会社業績に対する一定の違いが認められる場合にのみ、その違いに応じた賞与の支給であれば認められています。
また、賞与の不支給が認められるのは雇用形態の差違だけでなく、同じ非正規雇用労働者であっても処遇上のペナルティによって賞与に差が生じた場合です。
・各種手当
通勤手当や時間外手当など、各種手当についても正社員と同一の待遇で支給をしなくてはいけません。
家族手当や住居手当などに関してはガイドラインに明示されていませんが均衡・均等待遇の対象になっています。
そのため、各社がそれぞれの事情に応じて労使で議論していくことが望ましいとされています。
手当には各社様々なものが存在するため、実際の法対応に当たっては正社員に対して支給されている手当を全て洗い出し、非正規雇用労働者との違いを確認する必要があります。
・福利厚生や教育訓練
福利厚生や教育訓練についても、同一労働同一賃金ガイドラインに規定されています。
食堂や休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用や転勤者用社宅、慶弔休暇などについては、同一の利用・付与を行わなければなりません。
病気休職については無期雇用の短時間労働者については正社員と同一、有期雇用労働者については労働契約終了までの期間を踏まえた同一の付与をすることが必要です。
法定外の有給やその他休暇など、勤務期間に応じて認めているものも、同一勤続期間の場合は同一の付与が求められます。
また、教育訓練についても同一の職務内容でる場合は同一、違いがある場合は違いに応じた実施をしなければなりません。
EU諸国において、同一労働同一賃金は人権保障に関する差別的な取扱いを禁止する原則として位置づけられています。
性別や人種などといった普遍的な事、宗教や信条などを理由とした賃金差別を禁止しているのです。
そのため、日本とEUにおいて導入されている同一労働同一賃金は、類似点はあるものの多少の相違はあります。
例えば、日本では労働条件を企業単位で設定することが多いのですが、フランスでは職務によって賃金が決まる仕組みがあるため、結果的に「同一労働同一賃金」となっているのです。
この章では、大企業と中小企業における同一労働同一賃金の施行時期の違いを整理します。
大企業においては、2020年4月より施行が開始されています。
中小企業においては、2021年4月が施行時期となっています。
中小企業の定義は、以下の通りです。
・資本金額または出資の総額が3億円以下の事業主
・常時使用する労働者の数が300人以下である事業主
この章では、同一労働同一賃金によって求められる企業側の対応についてお伝えします。
必要な対応は、大きく二つに分けることが可能です。
まず企業に求められるのは、自社で働いている労働者を正社員以外の労働者を含めて全て把握し、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇を確認することです。
正社員に支給されている賞与や各種手当のうち、正社員以外に支給されていない、または計算方法や支給額が異なったものがないかを確認します。
もし待遇差がある場合は、合理的に説明が付くものか否かを整理し、合理的説明ができないのであればた待遇差の不合理性を是正することが必要です。
労働者間の待遇差を確認したら、次に必要なのは不合理な待遇差を解消するための人事制度や就業規則の確認と変更の検討です。
正規雇用労働者と非正規雇用労働者との役割の差を明確にすることで、現在の待遇差を合理的に説明することができるようになります。
また、役割の差によっても合理的な説明ができない場合は、賃金制度を含めた人事制度や就業規則を変更する必要があるでしょう。
人事制度や就業規則を変更する場合は、誰にでも分かりやすく一貫的で高い規定にする必要があります。
この章では、同一労働同一賃金に向けた対応をしなかった場合にどうなるのかをお伝えします。
結論、同一労働同一賃金を守らなくても、国からの罰則は原則ありません。
厚生労働省は「同一労働同一賃金ガイドライン」を定めていますが、ガイドラインとはあくまでも考え方の指針であり、法的な拘束力があるものではありません。
ただし、同一労働同一賃金に限らず、雇用形態以外の待遇において不合理に労働者を扱った場合には個別の罰則が設けられている場合があります。
なによりも「罰則がない=守らなくてもよい」という訳ではなく、今後罰則が設けられる可能性も踏まえて、今の内から対応を万全にしておく必要があるでしょう。
同一労働同一賃金を守らなかった場合に罰則はありませんが、従業員などから裁判を起こされてしまった実例はあります。
・判例①(住宅手当などの支払い)
契約社員が、自分に住居手当が無いのは不合理として契約先企業と争っていた裁判の控訴審において、東京高裁は企業に対し、住居手当全額の賠償を命じました。
判決の概要は以下の通りです。
「高裁は、比較した新一般職と職務の内容等に相違はあるが転居を伴う異動はともに予定されていないとして、住居手当全額の賠償を命じた。
病気休暇を正社員は有給、契約社員は無給としたことも不合理で、休暇の代わりに取得した年休の賃金相当額を損害額とした。賞与等の請求は斥けた。」
(引用:労働新聞社HP)
上記の内、「新一般職」が正社員にあたるとみられます。
比較したところ住居手当における不合理だけでなく、病気休暇が契約社員に与えられないことも不合理な待遇差として相応の賠償額の支払いを命じられたと整理できるでしょう。
・判例②(退職金の支払い)
販売店に勤める契約社員4名が同業務の正社員との待遇格差を不当とし、差額賃金等を求めた判例もあります。
東京高裁は一審で不合理が認められた残業の割増率における相違だけでなく、退職金の支給についても不合理を認め、企業側への支払いを命じました。
判決の概要は以下の通りです。
「残業の割増率の相違のみ不合理とした一審に対し東京高裁は、労働条件の比較対象を労働者側の選択に委ねたうえで、勤続約10年の2人に退職金の「功労報償的な部分」を支給しないのは不合理と判断。
正社員の算式を用いてその25%の支払いを命じた。契約は原則更新、65歳定年だった点も考慮した。」
(引用:労働新聞社HP)
判決からは、退職金においても同一労働同一賃金の考え方を守るべきとのスタンスが読み取れます。
同一労働同一賃金の考え方が浸透していくことで、フリーランスの働き方にも影響が出てくるものと考えられます。
例えば現在でも、フリーランスに支払われる報酬額に対し、業務ごとの最低基準額を設けることが検討されています。
また、独占禁止法によってフリーランスに対して不当に不利益となる契約が禁止されることも予定されています。
さらにフリーランスにとって不利な仕組みである現行の社会保険制度に関しても、是正の流れとなっているのです。
非正規雇用社員だけでなくフリーランスを含めた全ての人が、成果に見合った報酬を得ることができる時代に、日本は少しずつ舵を切ってきているのではないでしょうか。
今回は同一労働同一賃金において、導入目的や施行時期、企業に求められる対応や姿勢などについて解説しました。
同一労働同一賃金の取り組みは大企業において既に浸透しており、中小企業においても2021年4月の施行へ万全の対応をすることが求められています。
この取り組みは労働者が働いた分の対価を正当に受け取る貯めの取り組みです。
そのため、今後非正規雇用労働者だけでなくフリーランスの報酬にも法的保護の範囲が拡大されていくことが期待できるのではないでしょうか。
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